くらし
コーヒーのある心地よい居場所 「こーひー日和」
佐沼ICから約10分、コインランドリーとラーメン屋さんの並びにある、木の小屋。
2018年にオープンした「こーひー日和」は、コーヒー豆焙煎のお店です。
こじんまりとした暖かい雰囲気の店内には、カウンター席とテーブル席が3つ、お店の色々なところに器や雑貨などが並べられていて、店内で淹れたてのコーヒーを楽しむことができます。
閉店間際までお客さんで絶えない店内をてきぱきと動き回るのは、オーナーの千葉マキさん。豆の焙煎から接客まで、すべてお一人でこなしています。
カウンターにはお店で焙煎した豆の入った瓶がずらり
「コーヒーは苦いもの、酸味があるものなど、どういう味がお好きですか?」
明るく気さくな笑顔で尋ねてくれた千葉さん。おすすめを尋ねると、「私はケニアの豆が好きです」とのこと。早速淹れていただいた「ケニア」は、芳醇な香りとほんのり甘酸っぱい飲み口が黄金バランスです。
学校の先生時代、心をほぐしたもの
カウンターでコーヒーを淹れる姿が様になっている千葉さんですが、元は中学校の家庭科の先生。
「石巻管内を担当していた頃、震災前は雄勝中学校や、船に乗って女川町出島の学校にも通っていました。伊豆島の学校は生徒が6人しかいなかったけど、とっても素敵な思い出が沢山あります。
家庭科の先生だったのでクラスの担任にはならないのですが、その分いくつかの学校の授業を掛け持ちしていたので、本当に忙しかったし体力的にも精神的にも辛かった。
そんな時、学校の用務員さんが淹れてくれていたコーヒーに救われていたんです。」
仕事中の一杯のコーヒーに癒されつつ、個人的にもコーヒーのセミナーに通い、どんどんコーヒーの魅力にはまっていったといいます。
「教員をしながら足繁く通っていたのが、仙台の『Cafe de Ryuban』。初めてここのコーヒーを飲んだ時、なんだこの香りは!?と衝撃を受けました。お店でやっていたセミナーを受講して、半年くらいかけてコーヒーの焙煎、豆の産地、淹れ方などを学びました。」
学校の先生の仕事、家庭のこと、多忙な生活と精神的な負担から体を壊し、入退院を繰り返した時期を経て、教職を辞めて新たな一歩を踏み出すきっかけとなったのが、仙台の「Naturalcafe ROUTE99」で働きはじめたこと。
「本当に迷っていて辛かった時期でしたが、アルバイトの面接に行ったらお店のオーナーさんが親身に話を聞いてくれて。ちょうど私の前日にアルバイトが一人決まってしまっていたのですが、『あなた何だか面白そうだから、週一回おいで』と声を掛けてくれて。
結果的に決まっていたアルバイトの子がすぐに辞めてしまったので、毎日私が働くことになりました。」
このお店が、千葉さん自身のお店を開く大きな後押しとなります。
「セミナーに行っていたので知識だけはあったけど、実際に焙煎をやらせてもらったのはここが初めて。焙煎をはじめたらどハマりで、楽しくて楽しくて、生活とかお金とか気にせず、ただ、やっと好きなことできるという感じでした。」
新鮮なものを出したい
「Naturalcafe ROUTE99」でも使っていたという焙煎機。「使い慣れていて身の丈にあったものを」と「こーひー日和」にも同じものを導入している
「信頼する業者から生豆を卸し、毎日3〜4回焙煎機を回して豆を焼いています。時期や注文数によって変動はありますが、1kg窯で小さいので、少しずつ何度も回します。
コーヒー豆は基本的に腐ることはないので時間が経っても飲むには問題ないのですが、やっぱり食品は鮮度だと思うんですよね。とにかく新鮮なものを出したいんです。」
焙煎後、欠けたり形が変形していたりする豆は手作業で取り除く
「お店を開くときは、コーヒーだけをやろうって決めていました。だから私自身は、お菓子作りを全くやらないんです。ブレると違う店になるんですよね。やっぱり私は豆を焼きたかった。小さくていいから、味を楽しんでもらえるくらいの規模のお店がよかったんです。」
さまざまな居場所を経て
「Naturalcafe ROUTE99」での仕事が一区切りついたタイミングで、仙台市が立ち上げた中高生の放課後の居場所「のびすく泉中央」のスタッフとして働くことになった千葉さん。そこで、「こーひー日和」の原点にもなるあることに気づくことになります。
「中高生の放課後の居場所である『のびすく泉中央』では、人の居場所の必要性をすごく勉強させられました。
私は受付カウンターのスタッフだったのですが、家や部活でもない場所で、あまり繋がりがない人にだからこそ言えることもあるんだと感じた。親密になっていくほど話してくれる子もいれば、時間経ってからやっと言ってくれる子もいたり。
要は、『こーひー日和』でやっていることも同じなんですね。コーヒーはただの入り口で、私は居場所を作りたいんだなって。
例えば、仕事が終わって家に帰るまでに気持ちを切り替える場所。ただ携帯でメールの返信を全部してしまってから帰りたいとか、それでもいいんですね。仕事の合間、食後にちょっと、その人によって目的が全然違うと思うんですよ。でも、こんな狭いところにふらっとコーヒーを飲みにくるって何か意味があると思うから、それぞれの居場所にしたいなっていう気持ちでやっています。」
家族、友人、お客さん、みんなで作っている店
一昨年の6月、千葉さんの地元・佐沼でめでたくオープンした「こーひー日和」は、ご家族とお客さんとで作り上げたお店だといいます。
「お客さんみんなが見えて話せる場所にしたくて、インテリアをやっていた友人に相談してレイアウトを考えてもらいました。壁も娘がいい塩梅に塗ってくれました。
コーヒーのお店も多くやりたいことが出来る環境もあるし、仙台にいたかったのですが、いざ地元に戻ってきたら最高です。昔からの友達がいっぱいいて助けてくれるし、父母も近く、子育ても手伝ってもらえるので。
子どももまだ小学生なので、今は思い切って土日はお店を休みにしています。『仕事行ってきなよ』っていつか言われるようになるまでは、子どもとなるべく一緒にいてあげたい。でも、子どもってお手伝いが好きなんですよね。お店に連れてくると、やらなくていいよって言っても色々手伝ってお皿割ったり……(笑)でもそういうやりとりが大事なのかもしれませんね。」
季節に合わせてラインナップが変わるデザートは、千葉さんが先生時代のご友人の手作り。秋の「かぼちゃとラムレーズンのチーズケーキ」は、お店の常連の方が作ったかぼちゃが使われている。濃厚でなめらかな口当たり
店内に飾られている黒板は、登米でチョークアートの教室も開いているご友人が描いてくれたもの
オープンして2年と3ヶ月。着実に地域の様々な人の「居場所」として定着している「こーひー日和」。やりたい事を着実に突き詰めていく千葉さんは、今後お店をどのようにしていきたいのでしょうか。
「こういう世の中だし、明日もどうなるか分からないので、あんまり先のプランはないし、今を一生懸命やろう、ってだけ。
素敵なカフェとかたくさんあるけど、何を大事にしているかって店主によって違うし、比べられないなって思うんですね。私のお店は小さくて良い。お客さんとの距離感が良いし、今が良いかなって。
ただ、もし隣にスタバができても、潰れない店にしたい。味がどうのとかじゃなくて、その人の大事な居場所になればいいなって思っています。」
こーひー日和
〒987-0405 宮城県登米市南方町王塚50−1
営業時間 10:30〜16:30
定休日 土・日
・豆500gまで送料200円で地方発送可能