くらし

自然の恵みをうつわに込める 日高見窯

登米町中心部、「遠山の里」の並びにある「日高見窯 陶芸教室」の入り口には、大きな狛犬たちが並んでいます。

しかし、近づいてよく見てみると、狛犬ではなく、シーサー。シーサーといえば、沖縄の家屋の屋根で見かける犬ですが、なぜこの登米でお目にかかれるのでしょうか。

中に入ると、壁の棚いっぱいに器が。土の色を生かした素朴な小鉢から、深い藍色の丸皿まで、様々な色合いと質感のものが並んでいます。

迎えてくださったのは、「日高見陶芸」の鈴木由香さん。3年前にこの場所に工房を構えました。通りに面した工房には、明るい日差しがたっぷりと差し込んでいます。

登米市米山町ご出身の鈴木さんは、子どもの頃から物づくりに興味があったといいます。そんな鈴木さんは、18歳の時にある夢を叶えようと沖縄へ渡ります。

シーサーを作りたい

沖縄のお土産や民家でよく見かけるシーサーですが、新築祝いに贈るという風習もあり、なんと沖縄の陶芸家の半分は、シーサー作りの職人さんだそう。

沖縄は焼き物のことを「やちむん」といい、赤や青の原色を使って描いた魚などの自然のモチーフが特徴です。やちむんには、読谷山焼(よみたんざんやき)や壺屋焼(つぼややき)といった種類があります。

鈴木さんが扉を叩いたのは、那覇市の壺屋焼の工房。「その工房では、お兄さんが陶芸家として器を作っていて、その妹さんがシーサー職人だったんです。ちょうど人が辞めて次の人を探していたタイミングだったので、運良く働かせてもらいました。」

女性が多く働く工房で和気あいあいとした環境で、器とシーサー作りを学んだという鈴木さん。教室の外にあるシーサーにも合点がいきます。

鈴木さんの作品に見られる絵は、やちむんの技法「描き落とし」を取り入れたもの。「焼く前に絵の輪郭を描いて一旦素焼きし、塗り絵みたいに色を塗りつぶしていくんです。」

3年間で一人前に

沖縄で4年間過ごした後、鈴木さんが次に選んだ土地は、全国的にも人気の高い器・益子焼の栃木県。やちむんのような夏の風土から生まれる器だけではなく、春夏秋冬さまざまな器を作りたいという気持ちからでした。

「大手の作陶所で働かせてもらえることになったのですが、大量生産する作陶所だったので、形を作る、削る、整える、絵付けをするという工程が完全に分業されていて、それぞれの担当を、短時間で確実にこなすことを徹底的に叩き込まれました。」

この作陶所にあったのは、3年しかいられないという決まり。これは、3年間で一人前にならなければ独立は厳しい、ということを暗に示しています。

「だいたい湯呑みなら、1分くらいで成形しなければならない。分業なので、下手に作ってしまうと次の人の作業が滞ってしまうんです。3年間ですべての部門を経験し、同じグラム数、同じ寸法で作ることができるようになって、独立への自信がつきました。」

話しながらあっという間に形を作ってしまう鈴木さん

土地の素材で作りたい

沖縄の壺屋焼、栃木の益子焼の修行を経て、生まれ故郷・登米へ戻ってきた鈴木さん。器には、やちむんの特徴である魚など生き物のモチーフや、益子焼の普段使いに馴染む素朴さが同居していて、他にはないオリジナリティがあります。

「土地のものを使って器を作りたくても、登米で修行していたわけではないので、初めは土や釉薬を探すのにすごく時間がかかりました。徐々に、ここで陶芸をしていることが周りに伝わって、『土が出たよ』などと情報をくれたりする人も。」

土は、登米の米山と滋賀県の信楽(しがらき)を混ぜたもの。釉薬は、わらや籾殻の胚を調合

粘土を通したコミュニケーション

鈴木さんの陶芸教室のお客様は、女性から親子連れまでさまざま。

「自分に子どもができてから、子どもって本当に粘土好きなんだなと実感しています。作りながらいろんなお話してくれるので私もうれしい。粘土を通してコミュニケーションがとれるのは良いですね。」

お客さんが作った器は整えすぎず、そのままの形を生かして風合いが残る様に焼いているといいます。

工房での教室のほか、カフェでカップを作り、1ヶ月後に焼けたカップでお茶をするというカフェとコラボした出頭陶芸教室や、お店からオーダーを受けて作ったりと、地域に根ざして陶芸の魅力を広めている鈴木さん。

「自分の好きなものばかり作っていると、お客さんの欲しいものからちょっとずつずれてきてしまうので、お客さんの作る様子を見たり、誰かのオーダーを受けて作ったりするのは良い刺激ですね。

コーヒー焙煎のお店『こーひー日和』では、コーヒーカップのオーダーを受け、カップの内容量、取手の形や好きな色味などの好みを聞いて作りました。お客さんの好みを聞いて、擦り合わせていくのが楽しいです。」

登米を流れる北上川は、日高見が語源になっているという説があります。その語源である日高見からつけた日高見窯。登米の豊かな自然を感じ、その自然の恵みを生かして作られた鈴木さんの器、ぜひお手にとってみてください。

日高見窯

〒987-0702宮城県登米市登米町寺池桜小路103

お問い合わせ・教室の情報

http://suzukiyuka.main.jp/